未勝利馬トップクラスの知名度を誇るであろう馬、ヘヴィータンク。「ヘヴィータンクルール」について、しっかりまとめている人が少ないのでまとめてみた。
2018年と2019年の競馬番組一般事項を確認し、ヘヴィータンクの影響と思われる変更点をピックアップした(黄色部分が2019年に追加・変更された箇所)。
出走奨励金
オープン競走は無条件で満額交付→未勝利(未出走)馬の場合、タイムオーバー相当だと不交付
6.出走奨励金
(2) 前項の規定にかかわらず,以下の各号のいずれかに該当する場合には交付しない。
https://www.jra.go.jp/keiba/program/2019/pdf/bangumi_ippan.pdf
ロ 競馬番組で特に定めた競走以外の競走において、当該競走の第1着馬の競走に要した時間より,下表に定める時間を超えて決勝線に到達したとき。ただし、平地のオープン競走に出走したとき(未出走馬および未勝利馬を除く。)または裁決委員がやむを得ないと認めたときは,この限りでない。
いわゆる広義の「入着」。オープン競走なら10着以内、他競走は8着以内に入れば1出走奨励金をゲットできる。
通常の競走だとタイムオーバー相当になると不交付。ただしオープン競走だと例外的にタイムオーバー相当でも支給される。
ヘヴィータンクはこのルールの隙をついて、22.9秒差の大敗にもかかわらず弥生賞10着の出走奨励金108万円をゲットした。
さすがにJRAもルールの不備と気付いたのだろう、未勝利(未出走)馬はタイムオーバー相当だと不支給になった。
ヘヴィータンクルール制定後も未勝利(未出走)馬でなければ支給されるので、例えば2021年弥生賞は10頭立てで最下位だったタイセイドリーマー(1勝クラス)は出走奨励金108万円をゲットしている。まあ、1着馬と2.1秒差なのでヘヴィータンクと比較するレベルではないけど。
参考:タイムオーバー相当の表(平地)
新馬・未勝利以外 | 新馬・未勝利 | |||
芝 | ダート | 芝 | ダート | |
1400m以下 | 3秒 | 4秒 | 3秒 | 4秒 |
1400m超2000m未満 | 4秒 | 5秒 | 3秒 | 4秒 |
2000m以上 | 5秒 | 6秒 | 4秒 | 5秒 |
特別出走手当
平地オープン競走は無条件で満額交付→未勝利(未出走)馬が格上挑戦した場合、タイムオーバー相当だと不交付
1.特別出走手当
(5) 前4項の規定にかかわらず,競馬番組で特に定めた競走以外の競走において第8着より後の着順となった馬が,当該競走の第1着馬の競走に要した時間より,下表2に定める時間を超えて決勝線に到達した場合,当該馬の馬主に対しては,前4項の規定による金額の半額を交付する。
ただし,平地のオープン競走に出走したときおよび裁決委員がやむを得ないと認めたときは,この限りでない。(6) 前5項の規定にかかわらず,競馬番組で特に定めた競走以外の競走に出走した以下の各号のいずれかに該当する馬の馬主に対しては,交付しない。ただし,裁決委員がやむを得ないと認めたときは,この限りでない。
ハ 平地競走において,当該競走の第1着馬の競走に要した時間より、下表2に定める時間を超えて決勝線に到達した該当する競走条件が異なる競走に出走した2歳または3歳の未出走馬(未勝利競走に出走した馬を除く。)および未勝利馬
※下表2はタイムオーバー相当の表と同一。2018年は下表2に『オープン競走を除く』の文言があったため、未勝利(未出走)馬の場合無条件で満額交付だった。
2019年は下表2から『オープン競走を除く』の文言が削除。代わりの文が追加された。
「競走条件が異なる競走」というのはわかりにくいが、おそらく格上挑戦のこと。
こちらは不運にも「オープン競走」や「重賞競走」の文言がないため、「未勝利(未出走)馬が1勝クラスへ格上挑戦」した場合にも適用されるものと思われる。
今までは未勝利馬が格上挑戦し、9着以下でタイムオーバー相当でも半額交付だった。しかし2019年以降は8着以内でもタイムオーバー相当だと交付なしになってしまった。ヘヴィータンクの責任は重い。
このルール変更によりミルファームの格上挑戦が減ったような…。
タイムオーバー
重賞競走はタイムオーバー適用外→未勝利(未出走)馬が重賞競走に出走した場合、タイムオーバー適用
10.タイムオーバーとなった馬の平地競走の出走制限
重賞競走,騎手招待競走,その他競馬番組で特に定めた競走以外の平地競走に出走した馬または平地重賞競走に出走した未出走馬および未勝利馬が,
当該競走の第 1 着馬の競走に要した時間より,下表 1 に定める時間を超えて決勝線に到達したとき,当該競走の実施日の翌日から起算して下表 2 に定める期間平地競走に出走できない。
ただし,裁決委員がやむを得ないと認めたときはこの限りでない。
抹消給付金・付加金
初出走がタイムオーバーの場合、抹消給付金・付加金における「出走」とはみなさない形に変更
JRAの登録抹消を行う際 ( 引退時 ) に支給されます。 ただし、次の場合等は対象外となります。
・ JRA施設での在厩日数が60日未満の場合
http://web.archive.org/web/20190823082509/https://www.normandyoc.com/club/provision.html(2019年のノルマンディー)
・ 過去に抹消給付金又は付加金を受給したことがある場合
・ 見舞金第1号 ~ 第4号、または第13号の支給対象となった場合
※ タイムオーバーに該当した競走も「 出走 」 とみなします
→※ 令和元年9月7日以降、初出走時にタイムオーバーとなった場合には、「 出走 」 とはみなされません
http://web.archive.org/web/20181224193618/http://www.normandyoc.com/club/provision.html(2018年のノルマンディー)
http://web.archive.org/web/20171022064622/http://www.normandyoc.com/club/provision.html(2017年のノルマンディー)
http://web.archive.org/web/20160608194520/https://carrotclub.net/club/doc.asp?key=prize(2016年のキャロット)
http://web.archive.org/web/20171104215020/https://www.union-oc.co.jp/join/system/trouble.jsp(2017年のユニオン・オーナーズ・クラブ)
抹消給付金に関してはJRAのHPで見つからないため、一口クラブのHPから引用。出走数が増えた方が給付金は増えるため、これもヘヴィータンクによる影響だろう。
なお、過去の記載を見てみると
『平成26年6月6日以前に「出走」した競走でタイムオーバーとなった場合には「出走」とはみなされません』(ユニオン)
『タイムオーバーとなった競走の場合も「出走」とみなされます』(キャロット)
とちょくちょくルール変更されていることがわかる。
ただ、「ヘヴィータンクが60日在厩していたかどうか」は誰も調べていないので、不支給の可能性もなくはない。まあおそらく支給されたんだろうけど…。
ヘヴィータンクルール前後でどれだけ獲得金額が変わるのか!?
前 | 後 | |
出走奨励金 | 1,080,000円 | 0円 |
特別出走手当 | 431,000円 | 0円 |
抹消給付金・付加金 | 1,650,000円 | 1,300,000円 |
合計 | 3,161,000円 | 1,300,000円 |
ということで、186万円ほど変わってくる。ルールは抜け道がないように作っておくべきですね。
おまけ:抹消給付金・付加金「140万円」「150万円」説はどこからやってきたのか?
抹消給付金・付加金は何故か間違った数字で解説されていることが多い。
165万円と記載されているのは5ちゃんの書き込み一つくらいしか見つからなかった。
では何故150万円説や140万円説が出てきたのか考えていきたい。晒し目的ではないので悪しからず…。
150万円説
ヘヴィータンクの馬券を売ったJRAの責任について
ヘヴィータンク1戦1敗 引退について考える
へヴィータンクはどのくらいの利益があったのでしょうか?(知恵袋)
この150万円説はおそらく抹消給付金について書かれた2014年のブログを元にしていると思われる。
JRA引退時に貰える『抹消給付金』について(2014/06/05)
この間違いはまあ理解できる。JRAのホームページが探しづらいのが悪い(給付金についてどっかに載ってるかすら確認できてない)。
140万円説
この140万円説は2021年から登場していると思われる。これは大元がおそらくGJ(Goraku Journalまたはギャンブルジャーナル)。ここは正直評判イマイチなのだが、一応は会社が運営しているサイトなので個人のミスとは責任が異なってくる。
問題の記事はこちら。
ヘヴィータンクが出走した弥生賞は10頭立て。JRAの重賞レースは6着から10着まで出走奨励金が交付されますから、今の計算でいくとヘヴィータンクは出走奨励金108万円(本賞金5400万円の2%)プラス、重賞競走の出走手当44万4000円を含め約150万円を得たことになります。
JRA森秀行調教師がまたも競馬界の常識を覆す!? 話題独占したヨシオに続く「奇策」が炸裂か、あのヘヴィータンクから3年…… 異例の決断は武豊とウマ娘の期待馬も関係 2021.08.12 11:00 文=北野なるはや
さらに、3歳4月23日までの登録抹消によりJRAから140万円の給付金が出ますから、1戦0勝でも290万円ほどを稼いだ計算になるみたいです。 (競馬記者)
確かに同時期の新馬戦で10着に敗れた際は、出走手当42万3000円、給付金140万円のみで、180万円程度。ルール改正などもあるため正しい額はJRAホームページなどでご確認いただきたいが、110万円ほどの差が出ると考えれば、それも戦略といえるのかもしれない。
2018年には、同じく未出走馬のヘヴィータンクを弥生賞(G2)に出走させている。10頭立ての10着に終わったものの、出走奨励金と出走手当あわせて約150万円を獲得しつつ、レースから3日後の3月7日に早々と競走登録を抹消。JRAから140万円の給付金が支払われ、生涯成績は1戦0勝ながらも約290万円を稼ぎ出すというマジックを炸裂させた。
JRAヨシオの調教師「マジック再現」狙うも不発!? 未出走馬2頭を重賞にエントリーしたものの……、今回ばかりは取り下げとなった裏事情 2021.08.25 18:00 文=冨樫某
この2つの記事は全て「2021年のルール」を元に書かれている。
重賞競走 の出走手当は431000円(2018年)→444000円(2021年)
未勝利競走の出走手当は407000円(2018年)→423000円(2021年)
抹消給付金は前述のように165万円が正しい。
「ルール改正などもあるため正しい額はJRAホームページなどでご確認いただきたい」って投げやりすぎでしょ。2つ目の記事は「正しい額は~」の言い訳すら書いてないし、メディアとして責任がなさすぎる。
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