ダイタクヤマトのウィキペディアには以下のようなエピソードが載っている。
石坂はのちにセントウルステークスで凡走しながらもスプリンターズステークスへ挑戦したことに対し「近くの週に条件の合いそうなオープン特別があったが調教師としての経験が浅かったためにそんなレースがあることを知らなかった」と答えている。
ダイタクヤマト-Wikipedia
編集履歴を見ると2010年11月にこのエピソードが初めて追記されている。おそらくネット上の初出はウィキペディアだろう。が、当初から現在に至るまで出典は明示されていない。
2017年にはsportivaで同様のエピソードが記載されているが、同時に「賞金順により出走が微妙な状況だった」とも記載されている。このエピソードはラジオNIKKEIにも載っており信ぴょう性は高いだろう(何故かウィキペディアには載っていない)。
スプリンターズSと言えばダイタクヤマト。単勝200倍超えの大激走 新山藍朗●文 2017年9月27日
出走可能頭数が16頭のスプリンターズS。出走条件は収得賞金などの優先順位で決まるが、出馬登録が行なわれた当初、ダイタクヤマトのその順位は19番目だった。つまり、3頭の馬が出走を取り消さなければ、このレースに出ることさえできなかったのだが、きっちり3頭が出走を回避。ギリギリで出走が叶ったのだ。
同馬を管理していたのは、石坂正調教師。当時はまだ駆け出しだった。そのため、スプリンターズSと同時期に、比較的楽なメンバー構成で、条件も合っていたオープンレースがあるのを「見落としていた」という。
ここで疑問が生じる。「回避馬が出ないとGⅠに出走できない」状況ならば除外に備えて他のレースを調べるのが普通ではないか?ということだ。いくら経験が浅いとは言っても除外されてから次のレースを探すとは思えない。どうもこのエピソードはうさんくさい。
ということでネット競馬を使ってスプリンターズSの前後(セントウルS~スワンS)までの短距離~マイル競走を抽出。該当のレースがあるかどうかを調べてみた。
日付 | レース名 | 条件 | |
9/10 | セントウルS | 芝1200m(GⅢ) | 出走 |
9/23 | ギャラクシーS | ダ1400m(OP、ハンデ) | |
10/1 | スプリンターズS | 芝1200m(GⅠ) | 出走 |
10/1 | ポートアイランドS | 芝1600m(OP) | |
10/21 | 富士S | 芝1600m(GⅢ) | |
10/28 | スワンS | 芝1400m(GⅡ) | 出走 |
10/29 | 福島民友C | 芝1200m(OP) |
こうして見るとおそらく該当のレースはポートアイランドSということになるのだろう。富士Sや福島民友Cは近くの週というにはやや遠いし、富士Sはオープンではなく重賞だ。
ギャラクシーSはダート。ダイタクヤマトがダートを走ったのは未勝利戦までさかのぼるのでこれも可能性は低い。
netkeibaによるとポートアイランドSはちょうど2000年から施行時期が12月→10月に変更されている。「そんなレースがあることを知らなかった」という発言も理解はできる。
ただ、ダイタクヤマトにとって1600mの距離が『条件が合いそう』といえるかは大いに疑問だ。
ダイタクヤマトはスプリンターズSを制した後、1ハロン延長のスワンSでも優勝。さらに1ハロン延長となったマイルCSでも4着に入った。マイルも守備範囲といえるが、それが判明したのは実際に走らせてからだろう。
ダイタクヤマトはセントウルSまで11戦連続で芝1200mを使われており、マイルの出走に至っては2年10か月前の逆瀬川Sまでさかのぼる。マイルのオープンに『挑戦する』なら理解できるが、『条件が合いそう』というのはどうか。
また、現在GⅠの特別登録はレースの2週前、それ以外の競走は1週前になっている。2000年当時どうだったかは調べられていないが、現在と同じなら【スプリンターズSに登録(2週前)→除外対象→除外に備え他レースを探したところポートアイランドSを発見、登録(1週前)】という時系列も可能である。
以上より、個人的な見解は↓の通り。
・スプリンターズSの代わりに出走する可能性があったのは同週のポートアイランドS(芝1600m)
・ダイタクヤマトは芝1200mを繰り返し使われてきたので、ポートアイランドSが『条件に合いそう』というのは怪しい
・ポートアイランドSを知らなかったとしても、除外の可能性が判明した時点で普通は調査するはず
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