2022公認野球規則改正『本塁周辺にとどまっている投球』は曖昧すぎるのでは?

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追記:野球審判員マニュアルの2022年度修正版より、答えが例示されました。
終盤の個人的見解(①~④)は的外れな内容となっているので、[ 野球審判員マニュアル第4版 修正一覧 ](2022年2月更新)を見てください。↓

https://www.baseballjapan.org/jpn/umpire/umpire_manual.html

1月末に日本野球規則委員会より2022年度の野球規則改正が発表された。
その中で読んでもわかりづらいのが6.01(a)の部分。以下の黄色部分が追加された。

6.01 妨害・オブストラクション・本塁での衝突プレイ

(a) 打者または走者の妨害
次の場合は、打者または走者によるインターフェアとなる。
(1) 捕手に捕球されていない第3ストライクの後、打者走者が投球を処理しようとしている捕手を明らかに妨げた場合。
打者走者はアウトになり、ボールデッドとなって、他の走者は投手の投球当時占有していた塁に戻る。

もし、捕球されずに本塁周辺にとどまっている投球が、打者または審判員によって不注意にそらされた場合、ボールデッドとなって、塁上の走者は投手の投球当時占有していた塁に戻る。この投球が第3ストライクのときは、打者はアウトになる。

【原注】 投球が、捕手または審判員に触れて進路が変わり、その後に打者走者に触れた場合は、打者走者が投球を処理しようとしている捕手を明らかに妨げたと審判員が判断しない限り、妨害とはみなされない。

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この改正に関して↓のプレイ(2019年9月のディートリッチによる振り逃げ)が今回の改正によって三振ボールデッド・アウトになると推測している人が複数人いる。

2022年公認野球規則改正 ポイント② |少年野球BLOG 審判編

ただ、これは別問題ではないか?というのが個人的意見。そもそもこのケースで振り逃げが認められたのは誤審で、三振ボールデッド・アウトになるはず。公認野球規則6.03には以下の記載がある。

6.03 打者の反則行為
(a)打者の反則行為によるアウト
次の場合、打者は反則行為でアウトになる。

(3) 打者がバッタースボックスの外に出るか、あるいはなんらかの動作によって、本塁での捕手のプレイおよび捕手の守備または送球を妨害した場合。

【注1】打者が空振りしなかったとき、投手の投球を捕手がそらし、そのボールがバッターボックス内にいる打者の所持するバットに触れた際はボールインプレイである。


(4)走者がいるとき、または投球が第3ストライクのとき、打者がフェア地域またはファウル地域にバットを投げて、投球を受けようとしていた捕手(またはミット)に当たった場合

【6.03a3・4原注】
打者が空振りし、スイングの余勢で、その所持するバットが、捕手または投球に当たり、審判員が故意ではないと判断した場合は、打者の妨害とはしないが、ボールデッドとして走者の進塁を許さない。
打者については、第1ストライク、第2ストライクにあたるときは、ただストライクを宣告し、第3ストライクに当たるときに打者をアウトにする(2ストライク後の“ファウルチップ”も含む)

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2019年の振り逃げはここの項目と完全に一致する。
大元の”Official Baseball Rules“にも原注と同じような記載がある…はず。よって日本で付け加えたルールでもない。
よって今回の改正はこの案件とは別。

最後の段落『If a batter strikes~』が日本の公認野球規則原注にあたるはず

個人サイトだがルールについての議論が多い審判フォーラムでも、1538 振り逃げ後、バットに当たる。という書き込みで三振ボールデッド・アウトという結論になっている。

今回の改正に話を戻そう。NPB公式は「6.01(a)(1)に第3ストライク以外の打者にも適用されることが追記」とツイートしているが、個人的にはこれも解釈違い。

まず、6.01(a)(1)前段は「明らかに妨げた」。今回の追加部分は「不注意にそらされた」。
どう考えてもニュアンスが違う。では他の項目の補足なのか?と思い調べたが、自分が調べた限り他の項目に似たような文言で第3ストライクだけ適用するルールは確認できなかった。

つまり、全く新しいルールだと考えるのが妥当である。

打者の妨害は「打者アウト」「ボールデッド(打者アウトではないが走者を戻す)」「ナッシング(ボールインプレイ)」の3つに分けられる。頑張って調べたのでここに残しておく。

打者アウト(基本的に守備妨害でアウト、一部走者アウトのパターンもあり)

6.01(a)(1)前段
捕手に捕球されていない第3ストライクの後、打者走者が投球を処理しようとしている捕手を明らかに妨げた場合。

6.03(a)(3)
打者がバッタースボックスの外に出るか、あるいはなんらかの動作によって、本塁での捕手のプレイおよび捕手の守備または送球を妨害した場合。

6.03(a)(4) ※原注を除く
走者がいるとき、または投球が第3ストライクのとき、打者がフェア地域またはファウル地域にバットを投げて、投球を受けようとしていた捕手(またはミット)に当たった場合

ボールデッド(打者アウトではないが走者を戻す。第3ストライクの時はボールデッドで三振)

6.01(a)(1)後段(今回改正で追加された部分)
捕球されずに本塁周辺にとどまっている投球が、打者または審判員によって不注意にそらされた場合、ボールデッドとなって、塁上の走者は投手の投球当時占有していた塁に戻る。
この投球が第3ストライクのときは、打者はアウトになる。

【6.03a3・4原注】
打者が空振りし、スイングの余勢で、その所持するバットが、捕手または投球に当たり、審判員が故意ではないと判断した場合は、打者の妨害とはしないが、ボールデッドとして走者の進塁を許さない。
打者については、第1ストライク、第2ストライクにあたるときは、ただストライクを宣告し、第3ストライクに当たるときに打者をアウトにする(2ストライク後の“ファウルチップ”も含む)

ナッシング

6.01(a)(1)【原注】

投球が、捕手または審判員に触れて進路が変わり、その後に打者走者に触れた場合は、打者走者が投球を処理しようとしている捕手を明らかに妨げたと審判員が判断しない限り、妨害とはみなされない。

『野球審判員マニュアル第4版(2020年発行)』に詳細が記されている。

10 振り逃げのあとの打者走者の妨害

打者走者が、捕手によって捕球されなかった投球を、蹴ったり、触れたり、あるいは他の方法で進路を変えた(故意ではない)。そのため捕手はプレイをすることができなかった。

――これがホームプレートの周辺で起きた場合はそのままボールインプレイである。しかし、打者走者が数歩走って一塁線上で発生した場合(打者走者は避ける時間があったとみなす)、インターフェアが宣告され、打者走者はアウトとなり、走者は投球当時の塁に戻される。
2014年度の改正で「明らかに」という言葉が追加になった。「明らかに」ということは、だれが見ても「明らかに」ということだが、たとえば打者走者に恣意性がかなり認められる場合とか、あるいは打者走者が投球または投球を処理しようとしている捕手を邪魔しないよう避ける時間があった(あるいは避けられた)と判断される場合が、「明らかに」に相当すると考えられる。あくまで審判員の判断だが、”出会い頭”的あるいは偶然の場合は明らかな妨害とは言えない。

野球規則を正しく理解するための野球審判員マニュアル 第4版 P147-148

個人的にはここのボールを蹴っ飛ばしても(偶発的なら)原則ナッシングという状況を変えるために今回の規則改正があったんだと思う。

判断する上で難しいのは『本塁周辺にとどまっている投球』と『不注意にそらされた』だろう。

『とどまっている』は『止まっている』ではないわけだ。
この『とどまっている』という表現は走者に使うことはあっても、ボールに使うイメージはない。
ボールの勢いがどれくらい弱ければ『とどまっている』かどうかは解釈が分かれそうだ。
おそらくは「ボールを避けられる程度の速度まで落ちている」という定義だと思うが…。
審判が頭を悩ませそうなので、もう少し言葉の定義を詳しく記してほしかったと思う。

以上の推察より、個人的見解を表でまとめると以下のようになる(バットによる妨害は除く)

打者の行為投球(ボールの状況)規則
捕手を明らかに妨害いずれも打者アウト6.01(a)(1)前段
ボールの進路を変えた(故意ではない)ホームプレートから離れている打者アウト6.01(a)(1)前段
不注意によってボールの進路を変えた本塁周辺にとどまっているボールデッド6.01(a)(1)後段
ボールの進路を変えた(故意ではない)ホームプレート周辺
(ボールに勢いがありとどまっていない?)
ナッシング6.01(a)(1)【原注】

①と②は今回の規則改正と関係ないので今まで通り。問題は③と④。6.01(a)(1)【原注】が削除されていないため、ナッシングの選択肢は残るはずだ。
ナッシングは③の逆説的に勢いがあるボールと解釈した。皆さんの解釈を求む。

おまけ

NPBのツイートが間違っていると判断したので、NPB公式サイトから↓の内容で意見箱に投げました。

意見箱送信内容

“2022年度野球規則改正”に対するツイート(https://twitter.com/npb/status/1486598253781319682)について

「第3ストライク以外の打者にも適用されることが追記」と書かれていますが、
従来の規則は『第3ストライクの後、打者走者が投球を処理しようとしている捕手を明らかに妨げた場合』、
今回の改正は追加された段落は『不注意にそらされた場合』です。
『明らかに妨げた場合』と『不注意にそらされた場合』は別なので、前段落の補足ではなく新しくルールが追加されたと考えるのが妥当だと思います。

「第3ストライク以外の打者にも適用」という表現は間違っているのではないでしょうか。

おまけのおまけ

公認野球規則の『打者または走者の妨害』は2014年度に一旦改正が入っている。旧規則はこちら(当時は6.01ではなく7.09)。

7.09  次の場合は、打者または走者によるインターフェアとなる。
(a)第3ストライクの後、打者が投球を処理しようとしている捕手を妨げた場合。

公認野球規則2011

今の規則と比べるとずいぶんさっぱりしている。2014年の改正は「ボールへの妨害」と「捕手への妨害」を分ける意図があったのかなあと。
そこからさらに「ボールへの妨害」を細分化したのが2022年度の改正…ですかね?

2014年の改正には2012年のこのプレイが絡んでいるかもしれない。

振り逃げ判定について、巨人原辰徳監督が審判に説明を求める場面があった。
4回2死、広島鈴木がカウント1ボール2ストライクから、ワンバウンドを空振り。捕手阿部が前に落としたボールは鈴木の足に当たり、一塁ベンチ側へと転がった。
インプレーとして扱われ、振り逃げは成立した。原監督は「三振と思い確認しました。協議に従いました」と話した。
野球規則には、振り逃げの打者走者がボールを蹴った際の明確な規定は記されていない。

【巨人】原監督振り逃げ判定で説明求める

コメント

  1. 通りすがりの通訳案内士兼お父さん審判 より:

    通りすがりで失礼します。通訳案内士でお父さん審判をしているものです。どうぞよろしくお願いいたします。

    細かいところまで掘り下げているはるなぎ様のご投稿、大変興味深く読ませていただき、わたしも規則やアメリカの資料を見ながら勉強させていただきました。久々にいろいろと掘り下げるきっかけをいただきありがとうございます。

    その中で見つけた私なりの解釈を共有させていただければと思います。

    現行規則の(1)の第1行と第2行(現行部分といいます)が「打者走者」、今回改正された部分(改正部分といいます)が「打者」となっている点が気になり昨年改定されたofficial baseball rules 2021の6.01(a)(1)を見てました。

    現行部分は「a third strike」ですが、改正部分は「a pitch」となっていましたので、改正部分は投球すべてについての規定だと考えます。

    また、「本塁周辺にどどまっている」も英語では「If a pitch that is not caught remains in the vicinity of home plate」とあり、remainsはとどまっていると訳されていますが、英語の意味では「そこに残っている、又はそこにある」ということなので、動きの強弱は関係ないニュアンスです。

    ちなみに私が改正部分を訳す(=わたしの解釈)のであれば下記のとおりになります。

    「また、もし第3ストライクに限らずすべての投球が、捕球されずに本塁周辺にありかつ打者または審判員の不注意によってそらされた場合、ボールデッドとなって、塁上の走者は投手の投球当時占有していた塁に戻る(この投球が第3ストライクのときは、打者はアウトになる)。」

    あと上記④のホームプレートの周辺についてですが、規則上はどことは書いていませんので、じゃあどこでも(1塁の付近とか)いいのかということで、「野球審判員マニュアル」で「本塁周辺」と解釈して言っているのかなと思っています。

    もとはアメリカの規則がベースになっているのですが、それの誤訳とまではいかないにしてもニュアンスの違いなどで意味が違うものとなってしまっているものも散見されます。そこに日本独特の解釈・条文が入り込んで、ややこしくなってしまっているのだと思います。変に改行したり、スペースを入れてみたり。

    野球規則、競技者必携、審判員講習会マニュアル、各連盟・リーグの申し合わせなどでどんどん解釈が変わっていっているので現場は大変です(笑)。規則の改正もいいのですが、それにともなった例示や解釈の内容なども同時にリリースしていただければみなさん困らないのかなと思いますね。

    長々となりましたが、今回は本当に勉強になりました。ありがとうございました!