大相撲脳震とう不戦敗問題を考える

大相撲

かなりのスピード決着となった。初場所9日目に幕下・湘南乃海がフラフラなりながらも相撲を取らせたことに批判が相次いでから2週間足らず。審判規則が変更され、相撲が取れない状態の力士は審判権限で不戦敗とすることができるようになった。

相撲を取らせないという判断は力士のことを考えれば当然だろう。ただ、不戦敗とするのが正しいのかどうか。相撲には今やほとんど使われていないが、痛み分けという制度がある。過去の例とともに確認していきたい。

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2021年初場所10日目 幕下 朝玉勢-湘南乃海(立ち合い待ったの際に脳震とう、少し間をおいて再度取組)

湘南乃海が頭強打でフラフラも白星 [2021年1月19日22時7分]
https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/202101190000766.html

湘南乃海と朝玉勢の一番で危ない場面があった。互いに頭から激しくぶつかり合った立ち合いが、不成立になり取り直しに。
しかし、湘南乃海が腰から崩れ落ちてすぐには立てなくなった。フラフラになりながら何とか立つも、仕切り線の前に手を合わすことができなくなった。
すると、1度、両力士は土俵下に下がり、審判団が土俵上に上がり協議を開始。
協議は約1分続き、その後取り直しの一番が行われた。 成立した立ち合いでは、朝玉勢が頭でかましにいき、湘南乃海は胸を出していった。
脳振とうのような症状を見せていた湘南乃海だが、はたき込みで朝玉勢を下して勝ち越した。

相撲協会が審判規則一部変更 脳震とう問題など受け [2021年1月28日15時20分]
https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/202101280000369.html

日本相撲協会は28日、東京・両国国技館で理事会を開き、審判規則の一部変更を決めた。
<1>審判委員 第4条 審判委員は、力士の立ち合いが成立する前に、相撲が取れる状態ではないと認めた場合には、協議の上で当該力士を不戦敗とすることができる。
<1>については初場所9日目の幕下取組、湘南乃海-朝玉勢戦を受けたもの。
審判部の伊勢ケ浜部長(元横綱旭富士)は前日27日の報道陣の取材対応で「著しく相撲が取れない場合は、相撲を止めてみんなで相撲を取らせるか、取らせないか協議して決める」と、
相撲が取れないと判断した場合は不戦敗にすることを、勝負規定に加えると明言していた。

2005年夏場所7日目 十両 五城楼-琴春日(最初の取組で負傷、取り直しで不戦敗)

五城楼、史上2度目の珍事とは
https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/202005290000982.html

物言いがつく。協議が行われている間、土俵上の審判団と五城楼が何やら意思確認。押尾川審判長(元大関大麒麟)の場内説明。
「土俵に着くのが同時とみて同体取り直しと決定致しましたが五城楼が負傷しており、相撲が取れず琴春日の不戦勝と致します」
もちろん五城楼の不戦意思と、琴春日の取り直し意思は確認された末の結末だ。ちなみに琴春日にも不戦意思があれば「痛み分け」になる

五城楼の診断は右ひざ半月板損傷および同外側側副靱帯(じんたい)損傷の疑い。

取組により負傷(脳震とうではない)し、取り直しの一番を取れなかったケース。ウィキペディアの痛み分けのページによると、片方の力士が相撲を取れる状態であるのに痛み分けとするのはおかしいとの意見が多く出ていたため、痛み分けにならなかったらしい(出典がないので事実かどうか不明)

2011年名古屋場所7日目 幕下 若龍勢-宇映(最初の取組で脳震とう、取り直しで不戦敗)

取り直し土俵上がれず不戦敗
https://www.nikkansports.com/sports/sumo/news/f-sp-tp3-20110716-806157.html

 幕下の若龍勢-宇映の一番で取り直しとなりながら、負傷した宇映が土俵に上がれず不戦敗となる珍事。
 後退した若龍勢が大きく右へ振ると、飛んだ宇映が頭を強打。取り直しとなったが、宇映がしばらく起き上がれない。
 審判長を務めた湊川親方(元小結大徹)は「痛み負け」と場内に説明し、「取れないのだから不戦敗にした」と話した。
 脳振とうの宇映は医務室で約1時間半も治療を受け「大丈夫だけど、足がふらついている」とゆっくり歩いて引き揚げ、若龍勢は「勝ちでいいのかな」と戸惑っていた。

五城楼と似たようなケースだが、こちらは脳震とう。ただ、脳震とうを考慮したというより相撲を取れるか取れないかで判断したような書き方。

2018年夏場所10日目 幕内 北勝富士-竜電(立ち合い待ったの際に脳震とう、再度取組も痛み分けの可能性があった?)

北勝富士が脳振とうで「痛み分け」寸前に(サンスポ)
https://www.sanspo.com/sports/news/20180523/sum18052305000004-n1.html

平幕北勝富士が「待った」の際に脳振とうを起こした。竜電との2度目の立ち合いが合わず、ぶつかり合った際に首が入り、土俵上で20秒以上も立ち上がれなかった。
「もうろうとして力が入らなかった」。4度目にようやく立ち合ったが、はたき込まれて6敗目。
いずれも行司待っただったが、北勝富士が応じられない状態になった場合、幕内では昭和33年秋場所の鳴門海-若葉山以来の「痛み分け」となる可能性があった。

あわや60年ぶり痛み分け 北勝富士、脳しんとうのような症状でクラクラ(報知)
https://hochi.news/articles/20180522-OHT1T50268.html

 竜電―北勝富士の一番は、幕内では1958年秋場所の鳴門海―若葉山以来60年ぶりの痛み分けとなる可能性があった。
 不成立となった2度目の立ち合いの後、後方に倒れた北勝富士がなかなか立ち上がれなかった。藤島審判長と行司の木村寿之介が北勝富士に取組が可能か尋ね、問題ないとの意思表示があり続行。
計4度目の立ち合いで成立したが、北勝富士ははたき込みで敗れ、引き揚げる花道で座り込んだ。「クラクラときた。悔しい」と脳しんとうのような症状があったという。

立ち合いで脳振盪? 北勝富士、仕切り直しで敗れる(朝日)
https://www.asahi.com/articles/ASL5Q6F91L5QUTQP03F.html

 立ち合いで竜電と激しく頭をぶつけ合った北勝富士が、土俵に背中から倒れた。しばらく立ち上がれない。取組後の本人の説明によると、軽い脳振盪とみられる。
 だが、この立ち合いは呼吸が合っていなかったとして不成立。ふらふらしながら立った北勝富士は、仕切り直しの一番で敗れた。
 この取組を裁いた幕内格行司の木村寿之介は「一瞬、(北勝富士が)相撲を取れなくなった場合のことを考えました」。大相撲ではけがなどで相撲を取れる状況でない場合、勝負を預かることができる。過去には、初代横綱若乃花と出羽錦が立ち合って3度引き分けた例などがある。
 だが、北勝富士は立ち上がり、顔をたたいて仕切り線に戻った。その際、「大丈夫か?」と声をかけた寿之介は、北勝富士の表情から続行できると判断したという。
 取組後、北勝富士は西の花道の奥でふらつき、うずくまった。
 意識はあったのかと問われると、「力が入らなかった」と悔しさをにじませた。3度も不成立となった立ち合いを振り返り、「あっち(竜電)が早く立った」と話した。

上記2例とは異なり、相撲を取る前(立ち合い不成立)に脳震とうが発生したケース。今回の湘南乃海と全く同じである。審判や行司の発言がほとんどないので決め手には欠けるが、サンスポと報知は見出しで痛み分けの可能性に言及している。
宇映との対比で、取組による脳震とうと取組前の脳震とうで対応を変えようとしていることがわかる。まあ、審判委員の中で意見が統一されておらず宇映の時と対応が変わっただけの可能性もあるが…。

取組中の負傷と立ち合い不成立の負傷で対応を変えるべきか?

「意見が統一されていなかっただけ」では面白くないので、何故対応を変えようとしていたか推測し、それを踏まえて個人的な結論としたい。
まず、相撲の立ち合いは双方が呼吸を合わせることで初めて成立する。呼吸を合わせられなかった結果の負傷であれば、基本的に双方に非がある。
一方、取組中の負傷は双方に非がないはずである。負傷していない(相撲を取れる)力士側の目線に立って考えると、自身にも非がある場合は勝ちにならなくてもある程度納得いくだろうが、非がない場合は納得いかないだろう。
映像を見ていないのでわからないが、北勝富士の発言「あっち(竜電)が早く立った」を信じるならば竜電が突っかけた形となり、竜電の責任が大きかったのかもしれない(突っかけた側に必ずしも責任が大きいとは限らないので推測でしかないが)。そのため、北勝富士が不利にならない痛み分けの選択肢が出てきたのではないだろうか。

こういった考え方からすると、脳震とうで相撲を取れない力士を不戦敗とする今回のルール変更は腑に落ちない。湘南乃海のケースは映像を見たが、朝玉勢の手つき不十分により立ち合い不成立になっている。非が大きい力士に勝ちが付くのはおかしな話だ。これは脳震とうに限った話ではなく、それ以外の負傷も同様だ。

個人的な意見としては以下のようになる。
・取組中に負傷したが取り直しとなり、相撲が取れない場合は相撲が取れない状態の力士の不戦敗とする。
・立ち合い不成立により負傷して相撲が取れない場合、立ち合い不成立の原因を行司や審判委員が協議する。
手つき不十分等で一方の力士の非が明らかに大きい場合は、その力士の反則負けとする。双方に非がある場合は、引分(痛み分け)とする。
なお、相撲が取れるか否かの判断は脳震とう等生命の危険にかかわる場合本人以外が判断する。それ以外の場合は本人が判断するが、相撲を取れないと判断した場合次の取組は負傷により休場(不戦敗)する必要がある。


どうだろうか。取組中の負傷の場合は今まで通りで変更なし。立ち合い不成立による負傷の場合、状況によってはマゲ掴みのように反則負けにする。こうすれば不公平感はなくなるだろう。通常の負傷の場合次の取組を休場としたのは、大ケガだと詐称されないためだ。

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